Maria Somerville『Luster』 (April 25, 2025 / 4AD)

Between the DoorsREVIEWSFEATURE1 week ago53 Views

アイルランド西部の野趣あふれる海岸線と湿った風が、ひとつの音像として耳に残る作品が『Luster』だ。Maria Somervilleは故郷コネマラへ戻り、そこで育まれた時間と場所の記憶を出発点に、自身のドローン的感性を引き伸ばすようにアルバムを組み立てた。そうした制作背景は、音が鳴っている時間だけでなく、静寂が介在する間合いの扱い方を特徴づけている。

本作は、これまでの彼女の作品と比較してもサウンドの層が厚い。レーベルデビュー作である前作『All My People』が内省的な静けさを基調にしていたのに対して、『Luster』では周囲の景色を映し取るように、音色の広がりが空間感を強めている。シンセの幽玄な残響とギターのささやかな輪郭、それらが混ざり合う余韻の中で、歌はあくまで質感として配置される。シーン全体が溶け合うように進むこのアルバムは、聴き手に明確な出口を示すのではなく、むしろ漂い続ける感覚を深化させる。

収録曲では、「Garden」を含む幾つかのトラックが、アルバムの“中心軸”として知られる。だが、それらが主張するのは単一の物語ではない。様々な音のレイヤーが、思考と時間の痕跡を像として描き出し、まるで絵画の前で立ち止まって見るような聴き方を促す。歌詞は詩的でありながらも断片的で、感情を直線的に追うのではなく、環境と心象の間に流れる空気を写し取る。

制作は小さなスタジオで行われ、Somerville自身が環境とともに音を育んだという。4ADというレーベルとの結びつきは、耽美性とクラシックな感性を現代に継承する文脈として機能している。結果として『Luster』は、夢見がちなドリーム・ポップやアンビエント、そしてフィールド録音的な即興性をひとつの作品内に統合した、独特の世界観を示す作品となった。

このアルバムは、聴き終えた直後に理解されるより、時間を置いて何度も反芻したくなるタイプの作品だ。空間と時間が溶け合い、土地の記憶が息づく音像は、聴き手自身の内面にゆっくりと入り込み、静かな共振を生み続ける。

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