Yndling『Time Time Time (I’m in the Palm of Your Hand)』

Between the DoorsNEWSFEATUREREVIEWS2 weeks ago75 Views

Yndlingが描く、北欧ドリームポップの現在 本作『Time Time Time (I’m in the Palm of Your Hand)』は、彼女にとって2作目となるフルアルバム。 前作『Mood Booster』(2024年/Spirit Goth)で見せた“ベッドルーム・ドリームポップ”をさらに深く掘り下げ、Yndling=シルジェ・エスペヴィク(Silje Espevik)の音楽的個性がより明確に結晶した作品となっている。

Yndling『Time Time Time (I’m in the Palm of Your Hand)』(November 6, 2025 / Spirit Goth Records)

Yndlingが描く、北欧ドリームポップの現在

ドリームポップやシューゲイズという言葉を聞くと、90年代の霞んだギターと淡い女性ヴォーカルを思い浮かべる人は多いだろう。
しかし、その記憶を静かに更新しているのが、ノルウェーのアーティスト Yndling(ユンドリング)だ。

本作『Time Time Time (I’m in the Palm of Your Hand)』は、彼女にとって2作目となるフルアルバム。
前作『Mood Booster』(2024年/Spirit Goth)で見せた“ベッドルーム・ドリームポップ”をさらに深く掘り下げ、Yndling=シルジェ・エスペヴィク(Silje Espevik)の音楽的個性がより明確に結晶した作品となっている。

オスロを拠点とするシンガー・ソングライター、シルジェ・エスペヴィクはこう語る。

“I wanted to explore how softness and noise can exist together — like light and shadow in the same room.”
「静けさとノイズが同じ空間に存在できるかを試したかった。」

その言葉の通り、『Time Time Time』には光と影、夢と現実、内省と外界といった二面性が一貫して流れている。
日常の喪失や、変わりゆく関係の中に生まれる“手触りのある孤独”を描いた作品であり、
ノルウェーの長い冬を思わせる静謐な空気をまとっている。

オープニングを象徴する「It’s Almost Like You’re Here」では、柔らかいギターとアナログシンセが重なり合う。
深く沈むリバーブの低音と、囁くように空間へ溶けていくボーカル。
Beach HouseやCocteau Twinsを想起させながらも、Yndling特有の“寒色のトーン”が際立つドリームポップの中核曲だ。

アルバムタイトル曲「Time Time Time (I’m in the Palm of Your Hand)」では、
トリップホップ的なビートと浮遊するメロディが交錯し、静寂の中に潜む緊張感が印象的。
彼女が語った「softness and noise」というテーマを、最も具体的に体現する1曲となっている。

終盤の「You Know I Hate It (How the World Moves On)」は、
ノスタルジーと現実感がせめぎ合う美しいバラード。
ピアノと淡いノイズが絡み合い、アルバム全体のテーマを静かに閉じる。
タイトルが示す通り、“世界が進んでいくこと”へのやり場のない感情を繊細にすくい取っている。

『Time Time Time (I’m in the Palm of Your Hand)』は、
シューゲイズやドリームポップの系譜を継ぎながらも、自己内省的なトリップホップの領域へ踏み込んだ作品だ。
耳に届く音数は少ないが、その間に広がる余白が、聴く者の心に余韻を残すようだ。

ノルウェーの冬景色を思わせる静けさと、心の奥に潜むノイズが同居する本作は、
Yndlingがベッドルームの内側から世界へと踏み出した、その確かな一歩を刻む重要な一枚である。

Photo credit: Lene Nordfjord / Yndling Official

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