
Joy DivisionからFontaines D.C.、The Murder Capitalまで。海外のポストパンクに影響を受けながら、日本語のボーカルと独自のサウンドを追求する名古屋の3ピース、BOARD。その音楽的ルーツとバンドの現在に迫る。
BOARDは、名古屋を拠点に活動する日本の3ピース・ポストパンク・バンド。Joy Divisionをはじめとするポストパンクの影響を受けながら、Fontaines D.C.やThe Murder Capitalといった現代の海外インディー・シーンにも共鳴し、日本語のボーカルと緊張感のあるギター、反復するベースライン、鋭いリズムを組み合わせた独自のサウンドを追求している。ロンドンでのライブ活動を経験した彼らは、その後も3人それぞれの音楽的な感性を持ち寄りながら、自分たちにしか生み出せない音楽を模索し続けてきた。
2026年には「TYH」「Check」を発表し、9月の「Dry Sip」を皮切りに、「Nowhere Towns」「Borderline」と3曲の連続リリースを展開した。村松遼が「日常のスナップ写真のようなもの」と表現するこれらの楽曲は、ひとつの物語として構想されたものではなく、それぞれが独立した作品として生まれたものだ。無機質なリズムと生々しい感情が交錯する「Dry Sip」、独特のベースラインが楽曲の世界観を形作る「Nowhere Towns」、そして3人で過ごす時間の空気感を映し出した「Borderline」。異なる表情を持つ3曲には、BOARDの現在の音楽的な広がりが表れている。
今回のインタビューでは、音楽的なルーツやロンドンでの活動初期から現在までの変化、日本語で歌うことへの考え方をはじめ、新曲の制作背景や3人の創作上の関係性について話を聞いた。さらに、ライブでの印象的なエピソードや、今後挑戦したいというアルバム制作への思いにも触れながら、BOARDが追求する音楽と、その先に見据えるものに迫る。
― ポストパンクと紹介されることが多いBOARDですが、メンバーそれぞれがこれまで聴いてきたさまざまな音楽から影響を受けていると思います。そのなかで、現在のBOARDにつながるルーツには、どのような音楽やアーティストがありますか? また、それらから現在のBOARDに受け継がれている要素があれば教えてください。
村松: Joy Divisionにはかなり惹かれています。彼らの強烈な表現はいつでも僕の深いところに突き刺さります。
ルーツという意味では、僕らがロンドンで活動を始めた時にデビューアルバムを出したFontaines D.C.やThe Murder Capital。それにKing KruleやIceageなど挙げ始めたらキリがないですね。
彼らから受けた影響は音楽的な手法そのものというよりも、”自分たちの中に広がる世界を、自分たちにしか出せない音に変えること” だと思います。それぞれが独自の世界を持ち、それを妥協せずに音楽として表現している。そういう姿勢に強く惹かれるし、僕らもそういうところを追求していきたいと思ってます。
― ロンドンで活動を始めた頃と現在を比べて、BOARDにはどのような変化がありましたか? 音楽性や演奏、バンドとしての活動、音楽への向き合い方など、特に大きく変わったと感じることがあれば教えてください。
村松: まずそもそもBOARDの活動と共にジョージと梶くんはベースとドラムを始めたので、演奏やバンドで曲を作る時の幅はあの頃と比べるとかなり広がりました。そこが1番大きな変化です。
梶浦:バンドを始めるまでは、誰かのためというわけでもなく、いろいろな楽器を使いながら趣味で曲を作っていました。バンドを組んでからは、自分たちの音楽として曲を作るようになり、ポストパンクというジャンルやスリーピースという編成、日本語の歌詞といった制約のなかで作る難しさと、同時にその制約のなかで形を見つけていく楽しさを覚えました。
ロンドンで活動していた頃は、楽器の技術や知識もまだ十分ではなかったので、試行錯誤しながら研究することが多かったです。それは今も変わらず続いていますが、少しずつ自分たちなりの手応えを掴み始めている、その途中にいる感覚があります。ただ、道中様々な影響を受け取り入れる性格上、完全に掴み切ることはないのだとも思っています。
― BOARDの音楽は、海外の音楽から受けた影響を感じさせる一方で、日本語で歌われていることも大きな特徴だと思います。日本語の歌詞や歌声が、BOARDのサウンドと組み合わさることで生まれる独特の響きや感覚について、どのように感じていますか?
村松: 僕は中学生に上がる前から海外、特にUKシーンにかなり影響を受けていると思います。ですが、自分の音楽を鳴らしたいと思ってからは英語で歌うより自分の第一言語である日本語でやることが1番いいのではないかと考えるようになりました。かといって日本語縛りでやってもないですけどね。
― 2026年は「TYH」「Check」と新曲を発表し、9月には「Dry Sip」を皮切りに、さらに3曲の連続リリースがスタートしましたが、この3曲はどのような構想のもとに制作されたのでしょうか? 一連の作品としてひとつのストーリーを描くものなのか、あるいは3曲でひとつの作品として成立するような構成を意識しているのか、制作時に考えていたことを教えてください。

村松: この3曲はひとつの作品として構想したわけではなく、それぞれ独立した楽曲として生まれました。日常のスナップ写真のようなものです。なのでシングルでのリリースとしました。
それに、リリースの機会を増やせば出会える人も増えるかなと戦略的な要素も少しあります。
― 「Dry Sip」は、クラシックなポストパンクを思わせる緊張感と、無機質なビート、冷たく響くベース、鋭いボーカルが生み出すコントラストが印象的です。この曲はどのような着想から生まれたのでしょうか? また、ポストパンクに馴染みのないリスナーにも響くキャッチーさを感じますが、聴き手にどのような印象を残したいと考えていますか?
梶浦:メロディから歌詞に至るまで、望むものと現実、余裕と焦りのような、自分の中にある相反する感覚や記憶を軸に組み立てていきました。何かをはっきり説明するというより、聴く人それぞれの記憶や感覚に引っかかるものになればいいと思っています。
村松: この曲はメッセージ性どうこうってよりは、僕らの生々しい部分を映し出したものなんじゃないかなと思います。歌詞の内容も聞き手に委ねていますし、美しい歌詞もない。だからこそ生々しく印象に残ってほしいです。街の夜中に現れる不思議な音楽って感じに思ってもらえたらいいですね。
― 「Nowhere Towns」は、バンドサウンドを基調としながらも、どこかDAFを思わせる独特の疾走感があり、これまでのBOARDとは異なる一面を感じさせる曲です。この曲はどのように生まれ、皆さん自身はどのように捉えていますか?
村松: 実はライブではもう1年以上前からやっているので、ライブでやるたびにジョージのベースの弾き方がこの雰囲気を作っているなと思います。一度ノリの良いベースになるように強弱をつけてと話したこともありますが、ジョージはこの無表情なベースの弾き方にこだわっていて、今は僕もその世界に入り込んで歌っている気がします。
梶浦:スタジオでのセッションから受けたインスピレーションを、自分なりに曲として組み立てました。最初から完成形が見えていたわけではなく、バンドの中で偶然生まれたものを拾い上げていった感覚に近いです。歌詞はボーカルに任せることで、自分ひとりでは辿り着かなかった景色になったと思います。
― 連続リリースの最後を飾る「Borderline」は、前の2曲とは異なる空気感を持った楽曲です。この曲にはどのようなイメージや感情が込められているのでしょうか?
村松: 僕たち3人でいる時の空気感がうまく表現できたんじゃないかなと。ライブ後の車内、スタジオ後のタバコなど。そういった何か余韻を感じる時間の3人はこんな雰囲気です。
梶浦:黄昏時に車を走らせていてふと浮かんだイメージから、曲と歌詞を組み立てていきました。自分の中にある緊張感や、何かが焼き切れる直前の感覚を表現したかったのだと思います。光と闇、静けさと熱のような相反するものが、ひとつの場所に共存している。その境界に立っているような曲になったと思います。
― BOARDは、それぞれ異なる音楽的なバックグラウンドを持つ3人によるバンドですが、音楽に対する考え方や感覚の違いが、バンドにとってプラスに働くことはありますか? また、長く一緒に活動してきたからこそ、お互いの音楽に対する理解が深まったと感じる部分があれば教えてください。
村松: バックグラウンドこそ違うのかもしれませんが、BOARDで表現したい世界は同じ方向を向いていると感じています。ですが、編曲のアイデアやレコーディング時の音作りなどは、3人それぞれ意見が違うのでまとめるのはかなり難しいです。この難しさこそが芸術にはプラスになるのではないでしょうか。

― BOARDの音楽には、張り詰めた緊張感や反復するリズムが生み出す独特の高揚感があると思います。そうした音楽をライブで演奏するとき、観客の反応や会場の空気によって、演奏や楽曲の印象が変わることはありますか? これまでのライブで、自分たちでも予想していなかった瞬間や、特に印象に残っている出来事があれば教えてください。
村松: ライブは自分たち3人の空気感+曲間の歓声や沈黙が、会場の雰囲気となって張り詰めていきますね。
そんな中でも、曲を知っていて歌ってる人や前方で感情的になっている人を見るのは言葉にできない喜びがあります。時々僕もマイクやマイクスタンドに感情をぶつけてしまうんですが、名古屋のRippleという場所でマイクのケーブルが切れてしまい音が出なくなった事があります。あー叱られちゃうなーとライブ終わりにオーナーのノブさんのところに行ったら全く気にしていない様子で、その立ち振る舞いが僕のパンク美学にしっくり来てしまい今でも印象に残っています。
― 今回の新曲を聴いて、BOARDの音楽には、まださまざまな方向へ広がっていく可能性があるように感じました。これまでの作品では表現しきれていないことや、今の3人だからこそ挑戦してみたい音楽はありますか? 具体的なリリース予定というよりも、これからBOARDというバンドを通して、どのような音楽を生み出していきたいと考えているのか聞かせてください。
村松: やはりアルバムですね。僕らが作品体験としてどんなものを残せるか。これに挑戦していきたいです。できるだけリスナーが自分の日常の風景に落とし込んで聴けるようなものにしたいです。だけどこう思えば思うほどどうしても制作側の気持ちが強く乗ってしまいそうなので、エゴっぽくなりすぎずサラッと聴ける土台を作るのもBOARDにとって大事なことかなと思っています。
BOARD
名古屋を拠点に活動する日本の3ピース・ポストパンク・バンド。大学時代に出会ったメンバーによって結成され、ロンドンでのライブ活動を経て、日本を中心に活動を展開。Joy DivisionやInterpolに通じる緊張感のあるサウンドを基調に、反復するベースライン、鋭いギター、力強いドラム、日本語のボーカルを組み合わせた独自の音楽を追求している。2020年の『If I Forget You / Verify』、2023年のデビューEP『EP』を経て、2026年には「TYH」「Check」を発表。9月からは「Dry Sip」「Nowhere Towns」「Borderline」の3曲を連続リリース。現在は村松遼(vocals / guitar)、日置丈二郎(bass / vocals)、梶浦崚太(drums)の3人で活動している。